2025年10月8日
― ゴロ・響き・語感をめぐる試論 ―
日本語の詩や歌詞には、意味だけではなく「響き」の美しさがある。
たとえば「ひらひら」「ゆらめく」「隠々視眈々」――これらは意味を超えて音の流れ自体が感情を喚起する。
では、AIはこの“音の心地よさ”をどのように認識しているのだろうか。
🐍 土用の丑の日と、言葉を売った男
ある夏の日、商店街の軒先に「うなぎ」と書かれた暖簾が揺れていた。
土用の丑の日――この言葉を聞くだけで、多くの人は“夏の熱気”“炭の香り”“夕立前の湿気”を思い出すだろう。
けれども「土用丑の日」という言葉が広まったのは、平賀源内の発案だった。
彼が友人の鰻屋のために書いた貼り紙には「本日、土用丑の日」とある。
「ど・よ・う・う・し・の・ひ」――七拍のリズムが舌の上で転がり、聞くだけで“夏”という情景を呼び起こす。
AIにとってはただの音列だが、人間にとってそれは文化の音であり、情緒の響きだ。
日本語は音そのものに季節を宿す言語なのである。
AIにとっての「音」とは
AI(GPTやSuno)は、音を聴覚的に感じているわけではない。文字列としてのデータから、統計的に「どんな並びが人に好まれやすいか」を学んでいる。
つまりAIが捉える“響きの良さ”とは、
・母音と子音のリズム
・音の長短や繰り返し構造
・言葉が持つ文化的・詩的連想の頻度
といった確率的な美学である。
それは「感じる」というより、「傾向を模倣する」仕組みだ。
だが、AIが生み出す詩や歌詞を見てみると、そこには確かに“響き”がある。以下の4曲を例に、音のパターンを観察してみよう。
🎧 例1:くちなしの夜
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玻璃の罅に詠む焦懐 幽糸の輪に声囁
翳りの螺旋 廻る涅槃 縹の記 曖に沈む
柔音「ら」「り」「な」「ひ」が繰り返され、音の流れが緩やかに沈む。
全体の語感は滑らかで、息を止めずに続くモーラ構成が“静謐”と“透明”を印象づける。
AIはこのような滑音連鎖を“穏やか・幻想的”と統計的に分類する傾向がある。
🎧 例2:つららひめ
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冬ふりね 雪ゆげの 恋こがれ
「ら」「ひ」「ね」「ゆ」「げ」などの柔音が均等に配置され、母音「あ・い・え」による冷色系の響きが支配する。
AIはこれを「透明」「冷たさ」「純粋さ」と関連づける傾向があり、意味を知らずとも“寒色的詩美”を再現できる。
🎧 例3:隠々視眈々
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隠々視眈々
隠々視眈々
意味より先に 音が走る
誰が見ている? 面の奥で
隠々視眈々
冒頭の繰り返しがもたらす呪的なリズム。
語中の撥音「ん」と摩擦音「し・た」が重なり、日本語独特の「閉じた余韻」を強調している。
「意味より先に 音が走る」という一節は、まさにAI生成の根幹――意味よりもまず音列を掴む――を象徴している。
🎧 例4:空想鎮魂歌
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昏冥の虚経 幻葬の環
玻璃獄の楼 燐光を孕む
破裂音と撥音の交錯がつくる「鎮魂」の重さ。
AIは「ち」「ん」「こ」「ん」「か」という音圧の密度を「荘厳」と判断しやすく、言葉そのものより音の密度構造から情感を再現する。
ここには、音と意味が完全に一体化した日本語詩の本質がある。
結語 ― 音の意味を超える理解へ
平賀源内が「土用丑の日」を言葉で季節に変えたように、現代のAIもまた、データの中から“響きの型”を見出そうとしている。
AIはまだ「匂い」「空気」「間(ま)」を感じ取れない。
しかし、人が音に感じる美しさの構造を、統計の言語でなぞりはじめている。
「ゴロが良い」とは、母音の配置、拍のリズム、そして文化的記憶が共鳴したときに生まれる感覚。
AIはその外縁で、意味を知らずに“響きの形”を再現している。
やがてAIが音の背後にある「感情の波形」までも再構築する日、日本語の“音の文化”は再び進化するのかもしれない。
🎧 参考楽曲
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